私は、れもんの一言で有頂天になった。「大きくなったらお医者さんになる!だってパパとずっと一緒にいたいんだもん」いつまでこんなことを言ってくれるか分からないが、素直にうれしかった。大切にとっておきたい言葉だ。これでしばらくはがんばれる。
こんなうれしいこともあった。身も心も疲れて帰ったときに、玄関のドアを開けると、いちごが「パーパー、大好き-!“」と廊下の向こうから走って飛びついてきたのだ。疲れは一気に吹き飛び、私は満面の笑顔になった。
私は子どもたちの言葉や優しさに支えられている。しかし、不意に子どもたちが私の心に突き刺さる一言を放つことがある。その時はカチンときて叱り飛ばすのだが、ふと我に返ると、自分が子どもたちに言ってきたことをオウム返しで言われていることに気づく。子どもたちは自分の鏡なのだ。
私は反省し、最近は子どもたちにできるだけ優しい言葉をかけるように心がけている。ついキツイことを言いたくなるが、ぐっとこらえる。別の言い方を考え、優しく伝えるのだ。このワンクッションが大事だ。私たちは、子どもも大人もみな優しい言葉に飢えている。優しい言葉が元気の源なのだ。
今の世の中はどうだろう。誹謗中傷が嵐となり、横殴りに吹き付けている。みんな痛い言葉はおなかいっぱいのはずだ。私は、日々の診療でも、それを感じることがある。近年、不安やうつ症状を呈した患者数が増加してきている。
世の中を一気に変えていくことはできないが、各家庭、カップル、友人、職場で、つい言いたくなるキツイ一言をぐっとこらえて、優しい言葉に変換してみてはどうだろうか。世の中が優しい言葉であふれれば、嵐はやみ、雲ははれ、気持ちのいい風が吹くだろう。そして、晴れた空には虹がかかる。笑顔を照らして七色に輝き、人と人とを結ぶきれいな虹が、きっとかかるだろう。
2014年4月18日 日本海新聞掲載