田本家は、長女れもん、長男いちご、次女すいかの3人きょうだいだ。れもんはぼけーっとしていて、わが道を進むタイプ。すいかは典型的な末っ子でワガママだ。
そんな中、1人男のいちごは間に挟まれて、我慢をさせられることが多い。ストレスがたまるのか、たまに爆発しては、うるさいと怒られている。男同士だからか、私もいちごにはつい厳しくなる。逆に娘には甘くなりがちだ。そのため、余計にいちごに我慢を強いることになる。
私は、ちびっこ対象のライブをしているが、ライブは参加型だ。そのため、会場のちびっこたちがステージに上がり、一緒に歌って踊ってくれる。うちの子たちも、毎回ステージに上がってはフルテンションで楽しんでいる。そのため、ライブ後は汗だくで、水をがぶ飲みすることになる。
先日この「ライブ後の水」で兄妹げんかが起こった。いちごの持っていたペットボトルを、すいかが横取りしたのだ。一度横取りすると二度と返さないすいかの態度に我慢しきれず、いちごはついに泣き出した。
ライブ会場での泣き声は迷惑になる。私はいちごを抱えて会場を出た。外に出ると少し落ち着いたが、ライブ会場に戻ってもまたけんかになるだけだ。私はしかたなくいちごを楽屋につれていき、しばらくゆっくりすることにした。
いちごは汗だくだったが、ほとんど水を飲めていなかったため、楽屋に置いてあったお茶を「特別だよ」と言って渡してやった。そのお茶はいちごの嫌いな苦いお茶だった。しかし、思いがけず、いちごはとても喜んでくれた。
「特別」という響きがうれしかったのかもしれない:「パパ、とってもおいしいよ」と満面の笑みだ。ちょっと多めに注がれた嫌いなはずの苦いお茶を全て飲み干し、「ありがとう」といって抱きついてきた。
私はいちごの優しい笑顔に、涙が出そうになった。いつも我慢させることが多いのに…。私はうれしかった。そして、少しだけ反省をした。
2014年11月23日 日本海新聞掲載